※2026年本屋大賞ノミネート作品
ほのぼの・ほんわか小説を思わせる装丁と帯文章。時代に左右されることなく、読みつがれてもおかしくない作品だった。
ほのぼの・ほんわか×ほんの少しの不穏な空気
母と幼い娘の1年が時系列で物語になっている。本人たちにとっては大きなことだとしても、「小説」として考えると、起こったことはなんてことのないかもしれない。いわゆる日常。その積み重ねが1つの物語になっている。
春から始まる話は少し退屈に思えた。けれども夏がすぎ、風があざむ頃から秋にかけて──話が急展開するわけでもないのに──ぐっと読むスピードが上がった。物語のペースに慣れたことと、母娘がどのように日常のちょっとした出来事を乗り越えていくのだろうか、という興味が物凄く湧いたからだ。
ほのぼの・ほんわかとした話のように見せかけて、「嫌なこと」「嫌なやつ」が登場する。不穏な空気がほんのりと漂ってくるのもスパイスになっていた。
はじめは6章からなる小説を6日で読もうと思ったけれども、気がつけば3日で読み終わっていた。春(第1章)、夏(第2章)と読み、秋から先は1日で読み切った。それも無理やりではなく。
人間としての成長物語
幼い娘の成長と見せかけて、母の成長に焦点が置かれていたように思う。娘を育てているなかで、あるいはショバで、色々な人と出会い感化されていく。ぼく個人としては、<春>の主人公のような人物を嫌いではないが得意ではない。自分の意志があるのかないのかよくわからない凪のような、いるのかいないのかよくわからない存在に見えた。もちろん娘や近しい人からしたら大切なんだろうけれども。
それが冬になると打って変わる。たった1年。されど1年。ひかりのようなスピードで過ぎていく時の中で、母は母としてではなく、人間として大きな成長を遂げた。<冬>の主人公なら、ぼくはうまくやれると思う(どうでもいいか)。
大別すると優しい小説だ。グロテスクなシーンはなく、あからさまに嫌なことは起きない。だけれども、たくさんの小説を読んでいる人ほど、警戒しすぎてしまうかもしれない。なにか不穏なことが起きるのではないか──ほんとうは悪いことが起きるんでしょ──と。どこか素直になりきれない自分が浮き彫りになる。
長編小説としては、比較的読みやすく、難解ではない。それでいて章立てもはっきりしており、一気に読まなくても区切りをつけることができる。激しい展開より、日常の積み重ねを味わいたい人におすすめだ。読書初心者にも手に取りやすい一冊だと思う。

コメント