※2026年本屋大賞ノミネート作
本屋さんで平積みされていることも多い「殺し屋の営業術」(野宮有/講談社)。かつてから気になってはいたが、購入するには至っていなかった。このたび本屋大賞にノミネートされたこともあり購入。一気読みした。もっと早く手に取っていれば──というのが率直な感想だ。
導入からトップスピード
作品の情報は仕入れておらず、野宮有の著作を読んだこともなかった。ほんとうに「本屋大賞にノミネートされた」という事実以外はなにも知らずに読み始めたわけだが、あまりの疾走感に度肝を抜かれた。
ここ最近の小説は短編連作であったり中編が多い印象だった。ある編集者のインタビューでも、読者を惹きつけるために長編ではなく、そのような形態を取っているという部分があった。たしかに読者(ハードな読者はさておき)からすると、長編小説だと途中で諦めてしまうかもしれないという不安や疑念が浮かび、手に取ることを躊躇してしまうこともある。だからその考え方はよくわかる。
でも、この作品は短編連作ではないにも関わらず一気に読み込ませた。物語の導入が短く、一気にトップスピードへとギアを上げていく。
斬新ながら絶妙な舞台設定
タイトルからも分かる通り、さらには帯にも書かれているが、「殺し屋の営業マン」という設定が斬新だった。殺し屋の世界、裏世界のしきたりはなんとなくわかるけれども、営業的な役割があるのかはもちろんよく知らない(多くの読者はそうだろう)。
だから、「設定が甘い」とか「現実的にありえない」といったツッコミが脳に浮かぶこともなかった。そういう意味ではミステリーでありファンタジーでもあった。だが、「営業術」に関しては現実世界でのテクニックがふんだんに散りばめられている。ここは営業経験のある人やサラリーマンなら想像がつく範疇だ。だからこそ現実離れもしない絶妙な塩梅で物語は進んでいく。いい意味でぶっ飛び過ぎていない。
現実社会とファンタジー的な裏社会が絶妙にマッチされており、「次はどうなる? 」とページを捲る手が止まらなかった。 よくある「犯罪のロジック」「解決策のロジック」とはちがう「営業のロジック」で動く、ミステリー小説は新鮮に映った。
単行本で277ページは軽めの長編といったところだろうか。章立てはあるが、短編連作とは違う。情報がなく一気に読むのはしんどいと思う人もいるかもしれない。だがそれ杞憂に終わるだろう。序盤のギアの入れ方、そしてスリルの連続は読者を飽きさせない。
斬新な設定に目を奪われながらも、読後に残るのは「営業」という現実的なロジックの面白さだった。ミステリー好きはもちろん、仕事小説としても楽しめる一冊。「殺し屋の営業術」(野宮有)は、思いのほか多くの読者に刺さる可能性を秘めている。

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