※2026年本屋大賞ノミネート作品
森バジルの作品を読むのは初めてだった。どんなテイストの小説を書く作家なのか、事前知識はほとんどなかった。いや、なかった。オヤジギャグ的な題名と装丁のイラストからラノベ的(読んだことないけど)なイメージかと思っていた。しかし、読んで見ればそんなことはまるでなく、読者に”あえて”考察させ、その上をいくスペシャルな小説だった。
気持ちよくさせたうえで──
第1章の前にあるプロローグから始まるこの小説。そこが作品のはじめの考察ポイントだった。これは読書慣れしている人でも、そうでない人でも、この位置にこの描写があることに意味があることは感じ取れるだろう。なんせプロローグに、わざとらしいこの表現なんだから、重要ななにかと思わないほうがおかしい。
それが、作者の思うツボだった感も否めない。「考察しやすいですよ〜」「考察してくださいね〜」とのメッセージを受け取った読者(ぼく)は、読み進めていきながら「こういう展開なんだろうな」「そうだと思ったよ」と思っていた。
が、しかし、作者が描いたのは、読者(ぼく)に考察させたうえで、その上、いや斜め上というかなんというか。読者(ぼく)が思い描いたとおりに進んでいき、気持ちよくさせたうえで、「でもね違うんですよ。いや違うというのはいいすぎかな。50点てところですかね(笑)」とでも言われてしまいそうな、鮮やかな物語のたたみ方だった。
考察を全部を否定するのではなく、そのとおりだったと思わせたうえで超えてくるのは、非常にハードルが高いのではなかろうか。読後の余韻には悔しさが少し混じっていた。
ギャップにやられる
先入観はよくない、と思わされた。装丁やタイトルで想像していたものと(あくまでぼくにとっては)内容がぜんぜん違った。本屋大賞にノミネートされる作品では、たまに「放課後ミステリクラブ 1 金魚の泳ぐプール事件」(知念実希人/ライツ社)のような、子供向け(と思われる)のものもある。今回もその手のものだと思っていた。
作品の内容にたいしてもそうだ。さまざまな偏見や先入観を持っていると、してやられてしまう。それを回避したと思っていても、さらなる仕掛けが待っている。
蓋を開けてみれば、ミステリー小説であり読者に考察させ、それを超えるクライマックスがある、骨太な作品だった。大別すると大どんでん返しや叙述トリックに入るのかもしれないが、少し趣が異なっている。
複数の意味でギャップがすごく、本を読む楽しさを再確認させられた。といっても過言ではない。ミステリー好きはもちろん、「考察させる小説」を読みたい人や、本屋大賞ノミネート作の中でも読みやすさと仕掛けを両立した一冊を探している人には特に合うと思う。

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