毎年、この時期に本屋大賞ノミネート10作をすべて読んだうえで、書店員になったつもりで予想している。気づけば今年で3年目。年に1度の恒例行事のようなものだが、こうして続けてこられたのがなんだかうれしい。


新規購入は半分の5冊のみ
さて、今年の読んだ順番は、「PRIZE」「イン・ザ・メガチャーチ」「さよならジャバウォック」「エピクロスの処方箋」「失われた貌」「殺し屋の営業術」「熟柿」「暁星」「ありか」「探偵小石は恋しない」だ。ノミネート前に読んでいたのは「PRIZE」「イン・ザ・メガチャーチ」「さよならジャバウォック」「エピクロスの処方箋」の4作品。その他の6作品はノミネートが発表された2月以降に読んでいる。ちなみに「失われた貌」は積読になっており、新規に購入したのは5冊だけ。例年よりも少ない購入数だったが、今年はノミネート発表前の時点ですでに読んでいた作品がそれだけ多かった。
本屋大賞の概要は、いまさら説明するまでもないかもしれない。簡単に説明すると書店員が、「面白かった」「お客様にも薦めたい」「自分の店で売りたい」ものを選びランキング化されたものだ。ぼくは書店員ではもちろんないのだけど、書店員ならどれに投票するか、それを念頭に置きながら大賞を予想してみたいと思う。
書店員なら「イン・ザ・メガチャーチ」に入れる
ぼくが書店員なら、「イン・ザ・メガチャーチ」(朝井リョウ/日本経済新聞出版)を大賞に推す。今年の大本命だ。単純におもしろかった、おもしろくなかったでは選んでいない。売りたい、薦めたいも軸に入れている。
「イン・ザ・メガチャーチ」は、現実の社会で浮上する問題を題材にした、いかにも朝井リョウらしい作品だ。昨年も内容はぜんぜん違うけれど、同様の趣向で生殖記(小学館)がノミネートしていたが、それと比べても格段に読みやすい。異なる立ち位置にいる3人の視点から描かれているので、誰かに共感しやすい。それでいて、章立てがきっちりされており、短く区切られている。ハードカバーは分厚いものの、全体を通して読みやすいので、人に薦めやすい。好きだから、揺さぶられるから、というだけではなく、読みやすさのポイントがたまったうえでの選出だ。
その他の順位付けはあまりしたくないが、「PRIZE」「エピクロスの処方箋」「探偵小石は恋しない」の3作品が続いた。とくに「PRIZE」は秀逸で一騎打ちの可能性すらあった。作家の執念と編集者の立場、立ち位置、関係を含めた人間模様に狂気を感じた。ただ読んだ時期が早すぎたかもしれない。去年の1月に読んでおり、熱が冷めている感は否めない。もし、発売が遅く、例えば最後の最後で読んでいたら大まくりを決めていた可能性もあった。
「エピクロスの処方箋」は安定、安心のマチ先生。優しい医療の話に哲学を交えて、読者に考えさせる。かといって難しく複雑な問いではない。医療や読書について、マチ先生を通してぼくらに教えてくれる哲学書だ。
「探偵小石は恋しない」は個人的には衝撃だった。おもしろいのはもちろんのこと、タイトルや装丁、最初の方にでてくる登場人物の名前などからは想像もつかない骨太作品。考察をあえてさせて、その上を行く挑戦的なスタイル。ギャップにしてやられた。好き嫌いで言ったら大好きだった。
10作品のなかで最後まで残ったのが、この4作品だった。その4作品を比べたとき、「イン・ザ・メガチャーチ」が本屋大賞に最もふさわしい。ぼくはそう思った。もちろん、作品の優劣を決めているわけではない。
予想としては「イン・ザ・メガチャーチ」が最有力だと思う。ただ、ぼく自身がいちばん心を動かされた作品は、また別にある。



その他6作品にも、それぞれの良さ
ここまでに取り上げていない「さよならジャバウォック」「失われた貌」「殺し屋の営業術」「熟柿」「暁星」「ありか」の6作品が、おもしろくなかったかというとそんなことはまるでない。本屋大賞の概要、概念を鑑みたうえで、ぼくならこう投票する、というだけのこと。繰り返しになるが、作品の優劣ではない。
「さよならジャバウォック」は後半からクライマックスにかけてこれでもかというくらい伊坂幸太郎らしさが溢れでていた。「失われた貌」「殺し屋の営業術」は死人がでてくるが、どぎつくなかった。とくに「殺し屋の営業術」は、斬新な設定に疾走感が加わり読み心地がとても良かった。
「熟柿」と「暁星」はどちらかというと暗く不穏な内容。読み進めるのがしんどく、きつくなる箇所も正直あった。それでも、後半に入るとページを捲るスピードは上がっていった。「ありか」は10作品のなかでは、唯一といっても過言ではないほんわか小説。幸せと不幸せが同居する家族の日常にぐっときた。
毎年感じることだが、本屋大賞にノミネートされる10作品は選りすぐりだ。箸にも棒にもかからないような作品は存在しない。おもしろくないと感じることはあっても、誰にとってもつまらなく満場一致の駄作ということはないはずだ。単純に好みの問題。たとえばミステリーが嫌いな人にミステリーを薦めてもあまり響かないように。
本音は──
「イン・ザ・メガチャーチ」と「PRIZE」の一騎打ち。そして大賞が「イン・ザ・メガチャーチ」と予想した。しかし、これはあくまで予想であってぼくの本音とは少々異なる。実はぼくが大賞を取ってほしいと願うのは「探偵小石は恋しない」なのだ。
10作品の中で読んだのが一番最後。この予想記事を書いている時点で、ノミネート作以外の本も読んでいない。だから補正が入っている可能性はある。それでも老若男女が楽しめそうなミステリーであり、令和の時代にふさわしい、読者に考察を促す展開。そして結末はそれを越えていく。どこを切り取っても楽しめる。この作品が本屋大賞をとったら、ぼくは嬉しい。

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