知人から「放課後」(東野圭吾/講談社文庫)を勧められた。振り返ってみると東野作品は「容疑者Xの献身」(文藝春秋)や「秘密」(文春文庫)、そして「手紙」(文春文庫)など数冊を手に取ったことはある。しかし少なく見積もっても、ここ10年は読んでなかったと思う。
久々の東野作品か──と思いながら購入。そして驚いた。なんと帯に「伝説のデビュー作」と謳われているではないか。日本を代表するミステリー作家のデビュー作、胸が踊らないわけがない。
文庫版の初版は1988年。つまり単行本はその数年前。調べてみると1985年の作品で、同年に第31回江戸川乱歩賞を受賞している。なるほど、「伝説のデビュー作」と言われるわけだ。執筆の時間を考慮すると舞台は1980年代前半といったところだろうか。少し古臭さを感じるかもしれないな、そんなことを思いながらページを捲り始めた。
舞台は女子校。教師、生徒、保護者や家族、そして警察と登場人物の役割が明確であり、わかりにくさはない。事件、謎解き、ミスリードへの誘い、散りばめられた伏線(らしきもの)、犯人の供述、読者に委ねる終わり方と王道を往き、見事に読者(ぼく)を最後まで惹きつけてくれた。
結果として読書前のぼくの懸念は杞憂に終わった。スマホはもちろん、パソコンもインターネットもない時代の話にも関わらず、古臭さは感じなかった。デビュー作からこんなにすごかったのかと驚くばかりだ。今の時代でも十分に通用する。現代的な機器をちょっと出すだけで違和感すら感じなくなるだろう。いや、学校という舞台を考えるとスマホが禁止でも変な感じはしない。
もちろん設定がちょっと粗い(ように感じる)部分があったのは否めない。もしかしたら終わり方に異論を持つ人もいるかもしれない。ただ「先のことは想像してくださいね」といった読者に委ねるタイプの小説は多くある。なんなら東野作品でもあったはずだ。記憶が定かではないが…。
それでもデビュー作から「ちょっと光るものがある」どころじゃなく完成に近いほどの秀逸な作品を書くことができるのには驚くばかり。なおかつそこから先に埋没することなく圧倒的な量の作品を世に出し、確固たる地位を築き上げたことに尊敬の念を抱かずにはいられない。
ミステリー小説は複雑なトリックや、あっと驚く仕掛けが随所に散りばめられ、読むのに苦労することも少なくない。だけれどもこの作品は複雑なように見えて実は単純。だからといって子どもだましではもちろんない。ミステリーってこういうものだよね、というものを改めて教えられた気がした。
なんだか初心に帰ることができた、とでも言うのだろうか。ミステリーから少し距離を置いていた人や、久々に一冊読んでみようかな、という人にはちょうどいい作品かもしれない。


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