【ネタバレなし】島崎みゆきという高すぎる壁|「成瀬は都を駆け抜ける」

成瀬は都を駆け抜ける

 王道の青春小説である成瀬シリーズの最新作にして完結編「成瀬は都を駆け抜ける」を無事に読破した。過去作である「成瀬は天下を取りにいく」と「成瀬は信じた道をいく」からの3作目となるこの作品から光を見た。過去作を含めてネタバレはしない(はず)ように感想なるものを書き留めていく。

時代に迎合しない

 成瀬シリーズは時代に対して安易に媚びない。ここ最近の小説によく見られる、LGBTやコロナ禍、人種差別、ひいては戦争(紛争)といった現代社会の重いテーマを、安易に取り込んでいない。

 目に付くキーワードによる反応を狙わず、青春の1ページを、ただ純粋に青春として描いている点に、深い味わいを感じた。また青春小説では欠かせない要素でもある恋愛も「恋愛的」「恋愛風」も含め、ほとんど取り扱っていない。

 成瀬にとって最高のパートナーであり親友の島崎みゆき。広島の西浦くん。書こうと思えば、書くこともできるであろう人物は登場する。それでも安易に安っぽい”そういうこと”を描かず、ブレずに青春の日々が捲られていく。野球部や吹奏楽部などの部活に就職活動やミステリー的な要素といった大テーマがない青春小説で、この物語の進み方は成瀬、これぞ成瀬というにふさわしい。王道を突き進んでいく姿に惚れる。宮島未奈先生の胆力とも言うべきなのかもしれない。そういう要素がなくても”青春”だけでこれだけ強い物語が生まれることに感動せずにはいられない。

”こちらがわ”の人たち

 6つの短編は成瀬の視点で描かれていない。すべて成瀬の回りの誰かの視点で物語は進んでいく。読者は主人公である成瀬ではなく、どちらかといえば”こちらがわ”の誰かのフィルターを通して成瀬を見守る、いや一緒に生きていく構図だ。これは実にありがたい。

 何者にもなれなかった普通の人(ぼく)は、圧倒的な存在感を放つ成瀬に共感はあまりできない。これは変な意味ではなく、もちろん否定的でもなく、だ。物語のなかの成瀬は、現代社会で言うならば大谷翔平選手(メジャーリーガー)や藤井聡太さん(棋士)といったところだろうか。大谷さんや藤井さんは圧倒的な努力をして、圧倒的な存在感を示して、圧倒的な結果を残している。彼らにプラスの感情しか抱いていなくても、どこか遠い世界の人、「自分とは違うから」と思ってしまう存在に近しい。

 でも、だ。失礼を承知で言うけれども成瀬のまわりの人であるならば、ふつうの存在だ。ぼくが見ている大谷さんと同じように成瀬を見ているはず。常人には理解しがたい成瀬の感情よりは移入できる。

高すぎる島崎みゆきの壁

 成瀬あかりに匹敵する人気を誇る(ぼく調べ)、島崎みゆきの存在が欠かせない。成瀬の親友であり、最高のパートナー。「成瀬にはなれないけど、島崎なら──」あるいは「島崎のような存在が欲しい」と考えてしまう人(ぼく)。成瀬にはなれないけど、一緒に隣りにいて支えていく、人生をともに歩んでいく、見守っていくその存在に憧れる人はきっと多いはずだ。

 ぼくも”こちらがわ”の最高峰である島崎になりたい──と思っていた。でも、それはきっと難しい。最後の最後でそれを突きつけられた。自分の人生を振り返ってみると、島崎のように誰かを心から見守ってきたことがあっただろうか。いや、ない。もちろん、その瞬間、その瞬間ではあったかもしれない。でもそれは瞬間のこと。友達からの親友。さらにそのうえの存在として、誰かを考えたことなど残念ながら一度もなかった。島崎にならなれるかな、島崎になりたい、なんて烏滸がましいにもほどがあった。

 立ち止まって考えてみても島崎になりたい、島崎のような存在が欲しい、どちらの感情が強いかはよくわからない。でも島崎がいるからこの物語を一気に読むことができたのは、紛れもない事実だ。


成瀬は都を駆け抜ける (「成瀬」シリーズ)

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この記事を書いた人

本を読み、予想をしたりします。

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